商圏調査シートとは|A4 1枚で「この場所で売れるか」を考える道具
商圏調査シートとは、開業候補地のまわりに「どんな人が、何人いて、ライバルが何軒あるか」を1枚にまとめた紙のことです。難しい調査会社のレポートではありません。A4 1枚で十分です。
なぜ1枚にするのか。理由は3つあります。
- 物件は同時に2〜3件を比べることになる。1枚なら横に並べて比較できる
- 日本政策金融公庫などに事業計画書を出すとき、根拠として添付できる
- 「駅前だから大丈夫そう」という感覚を、数字に置き換えられる
この記事では、シートに書く項目を昼間人口・通行量・競合密度の3つにしぼります。初めて開業する方が自分で、しかも無料で調べられる範囲にそろえました。
まずシートの完成形を見る
先に、目指すゴールを見ておきましょう。埋めるのは次の欄だけです。
| 欄 | 書く内容 | 調べ方 |
|---|---|---|
| ① 候補地の住所・家賃 | 物件の場所と月額家賃 | 物件資料 |
| ② 商圏の範囲 | 徒歩◯分/車◯分 | 自分で決める |
| ③ 夜間人口(住んでいる人) | 商圏内の人口・世帯数 | e-Stat(政府の統計サイト) |
| ④ 昼間人口(昼にいる人) | 商圏内の昼の人口 | e-Stat |
| ⑤ 通行量 | 物件前を1時間に通る人・車の数 | 自分で数える |
| ⑥ 競合店舗数 | 商圏内の同業の数 | 地図アプリ |
| ⑦ 競合1軒あたりの人口 | ④÷⑥ | 計算 |
| ⑧ 想定客数 | 1日に何人来ると考えるか | 自分で仮定 |
| ⑨ 判断メモ | 良い点・不安な点を3行 | 自分の言葉 |
⑨まで書けて、はじめて「調査」になります。①〜⑦だけだと数字を集めただけで終わりです。
ステップ1|商圏の範囲を先に決める
商圏とは、お客さんが来てくれる範囲のことです。ここを先に決めないと、どこまでの人口を数えればいいのか決まりません。
範囲の決め方は「お客さんがどうやって来るか」で変えます。
| 来店手段 | 範囲の目安 | 向いている業種の例 |
|---|---|---|
| 徒歩 | 徒歩5〜10分 | カフェ、テイクアウト、コンビニ |
| 自転車 | 半径1〜2km | 美容室、学習塾、クリニック |
| 車 | 車で10〜15分 | 郊外型の飲食店、洗車場、整備工場 |
| 訪問(自分が行く) | 車で30分程度 | ハウスクリーニング、リフォーム |
地方だと車移動が中心になるので、徒歩圏で考えると範囲が狭すぎて「人がいない」という結論になりがちです。自分のお店にどうやって来るのかを、先に1行で書いてから始めてください。
ステップ2|昼間人口と夜間人口の両方を書く
ここが、初めての方がいちばん間違えやすいところです。
- 夜間人口=そこに住んでいる人の数(国勢調査でいう「人口」)
- 昼間人口=昼にそこにいる人の数(通勤・通学で来る人を足し、出ていく人を引いた数)
住宅街は夜間人口が多く昼間人口が少ない。オフィス街や工業団地はその逆になります。ランチ主体の飲食なら昼間人口、夕方以降の商売なら夜間人口を重く見ます。片方だけ見ると判断を外します。
調べ方は、政府の統計サイトe-Stat(イースタット) が基本です。国勢調査の「昼間人口」の項目から、市区町村単位、さらに細かい町丁目単位まで無料で見られます。数字は調査年によって変わるので、シートには必ず「◯年国勢調査」と出典を書き添えてください。事業計画書に使うときの信頼度が変わります。
自治体のサイトに「統計書」「まちづくり基礎資料」としてまとまっている場合もあり、そちらのほうが読みやすいこともあります。

ステップ3|通行量は自分で数える(15分×4回)
通行量のデータは、他人からは手に入りません。自分で立って数えるのが唯一の方法です。ただし1日中立つ必要はありません。
数え方の手順
- 物件の前に立つ(数える場所を毎回同じにする)
- 15分間、前を通った人(または車)を数える
- その数を4倍して「1時間あたり」に直す
- これを時間帯を変えて3〜4回、平日と土日の2日やる
シートには表で書きます。
| 曜日 | 時間帯 | 15分の実測 | 1時間換算 |
|---|---|---|---|
| 平日 | 8:00〜8:15 | ||
| 平日 | 12:00〜12:15 | ||
| 平日 | 18:00〜18:15 | ||
| 土日 | 12:00〜12:15 |
数えるときのコツを3つ。
- 通る人の様子もメモする。同じ100人でも、通勤で急ぐ100人と買い物客の100人では価値がまったく違います
- 雨の日と晴れの日は分ける。悪天候の日だけ数えて判断しない
- 車の場合は速度も見る。時速50kmで流れる道路沿いは、台数が多くても看板を見て曲がってはもらえません
ステップ4|競合密度は「1軒あたりの人口」に直す
競合の数は、地図アプリで業種名を検索して、商圏の範囲内にある店を手で数えれば出せます。ここで大事なのは、軒数のまま書かないことです。
競合1軒あたりの人口 = 商圏の人口 ÷ 競合店舗数
たとえば商圏人口が同じでも、競合が3軒なら1軒あたりの人口は多く、10軒なら少なくなります。この数字が小さいほど、お客さんの取り合いが激しいと読みます。物件Aと物件Bを比べるとき、この1つの数字があるだけで比較がとても楽になります。
ただし、多いこと自体は悪ではありません。ラーメン店が集まる街のように、集まっているから人が来る業種もあります。数字を出したうえで、「なぜここに多いのか」を1行書くところまでをセットにしてください。
ステップ5|業態によって、重く見る欄は変わる
同じシートを使っても、どの欄を重く見るかは業態で変わります。
| 業態 | いちばん重い欄 | あまり効かない欄 |
|---|---|---|
| 路面の飲食・物販 | 通行量、昼間人口 | 遠方の人口 |
| 予約制サービス(塾・サロン) | 商圏内の世帯数 | 通行量 |
| 訪問型サービス | 移動30分圏の世帯数、道路事情 | 通行量、物件の目立ちやすさ |
とくに訪問型は、通行量欄が空欄でも問題ありません。お客さんの家に行く仕事なので、店の前を何人通るかは売上に関係しないからです。代わりに「30分で回れる範囲に何世帯あるか」「1日に何件回れるか」を書きます。
参考までに、掲載ブランドの一例として訪問型の「お掃除のえる」(お掃除・お庭サービス)の本部公表値を挙げます。
| 項目 | 本部公表値 |
|---|---|
| 初期費用 | 105万円 |
| 加盟金 | 30万円(キャンペーン適用時/通常200万円) |
| ロイヤリティ | 売上の25% |
| モデル月商 | 132万円 |
| モデル手取り | 月32万円(オーナー1名稼働のモデル) |
※本部公表のモデルケースであり、収益を保証するものではありません。手取りは借入返済前・税引前の数値で、オーナー自身の人件費は別に確保する前提です。金額や条件は時期により変動するため、最新情報は必ず公式サイトおよび本部資料で確認してください。→ ブランド詳細
このように店舗を構えない業態では、初期費用の中身も「内装・保証金」ではなく「加盟金・機材」中心になります。商圏調査シートの欄は、業態に合わせて自分で足し引きしていいということです。
ステップ6|数字を「1日の客数」に翻訳する
集めた数字は、最後に必ず客数に直します。ここをやらないと、シートは眺めて終わりの資料になります。
やることは単純なかけ算です。
1日の想定客数 = 1時間の通行量 × 営業時間 × 立ち寄り率
立ち寄り率(通った人のうち何%が入るか)は、開業前には正確には分かりません。分からないので、あえて低め・普通・高めの3通りを書きます。
| ケース | 立ち寄り率 | 1日の客数 | 月商(客単価×客数×営業日) |
|---|---|---|---|
| 低め | % | ||
| 普通 | % | ||
| 高め | % |
そして判断は「低め」のケースで行います。低めの数字で家賃と生活費が払えるなら、その物件は検討する価値があります。高めのケースでしか成り立たない物件は、開業後に苦しくなりやすい。ここは金融機関の担当者も同じ見方をします。
よくある失敗3つ
1. 良い時間帯だけ数える 土曜の昼だけ数えて「すごい人通り」と判断してしまう。平日の夕方が本番の商売なら、その時間の数字がなければ判断できません。
2. 競合を業種名だけで探す カフェの競合はカフェだけではありません。コンビニのイートイン、パン屋、ファストフードも、お客さんの時間とお金を奪い合う相手です。「お客さんの財布から見て代わりになるもの」を競合に入れてください。
3. 数字を集めて終わりにする いちばん多い失敗がこれです。シートの⑨「判断メモ」に、良い点・不安な点・それでも決める理由を3行書く。ここまでやって、はじめて次の物件と比べられます。
まとめ|1枚を3件分つくると、選べるようになる
商圏調査シートは、1件だけ作っても意味が薄いという点だけ覚えておいてください。3件分そろえて横に並べたとき、はじめて「B物件は家賃が高いが競合1軒あたりの人口が多い」といった比較ができます。
やることをもう一度並べます。
- 商圏の範囲を決める(来店手段から逆算)
- e-Statで昼間人口と夜間人口を調べ、出典を書く
- 通行量を15分×4回、平日と土日で実測する
- 競合を数え、1軒あたりの人口に直す
- 低め・普通・高めの3通りで客数に翻訳する
- 判断メモを3行書く
慣れれば1物件あたり半日で終わります。調査会社に頼まなくても、この6ステップで「感覚で決める」状態からは確実に抜け出せます。
なお、そもそもどの業態が自分に向いているかが定まっていないと、シートの欄立て自体が決まりません。業態選びから整理したい方は、開業診断で方向性を確認してから商圏調査に進むと、無駄な物件見学を減らせます。
シートを書いてみて「この数字をどう読めばいいか分からない」となったときは、無料のLINE相談でそのまま画像を送っていただければ、編集部で一緒に見ます。判断はご自身で決めていただくのがいちばんですが、読み方の相談先として使ってください。
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