開業の基礎

障害者グループホームは本当に儲かるのか|売上から手元に残るまでの内訳

2026/8/18 更新

障害者グループホームは本当に儲かるのか|売上から手元に残るまでの内訳

「障害者グループホームは儲かるらしい」——ここ数年、地方の開業相談でよく聞くようになった言葉です。国から給付費が入るので売上が安定している、というのがその理由です。

たしかに、飲食店のように「今月はお客さんが来なかった」で売上が半分になる業種ではありません。ただし、安定しているのは入居者が埋まっていればの話です。そして、この事業の利益は「何人入っているか」でほぼ決まります。

この記事では、定員10名のグループホームを1棟運営したときのお金の流れを、収入と支出に分けて最後まで追いかけます。数字はすべて、編集部が一般的な条件を置いて組んだモデル計算です。実際の金額は地域・障害支援区分・加算の取り方で大きく変わるので、必ず後半の「下振れ条件」まで読んでから自分の数字に置き換えてください。

障害者グループホームとは:正式名称は「共同生活援助」。障害のある方が数人で一軒家やアパートに暮らし、世話人や生活支援員が食事・掃除・お金の管理・相談などを手伝う福祉サービスです。事業を始めるには都道府県または市(指定権者)の指定を受ける必要があります。

障害者グループホームは儲かるのか|手元に残るのは月0円〜60万円台

先に結論です。定員10名のホームを1棟だけ運営する場合、手元に残るお金は入居者数によってこう動きます。

入居者数(定員10名)月の売上月の費用月に残るお金年換算
5名(稼働50%)約151万円約218万円▲67万円▲804万円
8名(稼働80%)約242万円約228万円+14万円+168万円
10名(満室)約302万円約235万円+67万円+804万円
表の条件借入返済前・税引き前・自分(管理者)の人件費は含まず。1人あたり月収入30.2万円/固定費月200万円/変動費3.5万円per人で計算(編集部逆算)

読み取ってほしいのは、真ん中の行です。このモデルでは、8人目が埋まって、やっとトントンになります。7名以下はどれだけ真面目に運営していても毎月赤字が出ます。

一方で、満室に届けば年800万円ほどが残ります。ここから自分の給与を取るとして、1棟で年収600〜700万円前後というのが、この事業の「うまくいった場合」の姿です。2棟目・3棟目と増やして規模で稼ぐ人が多いのは、1棟だとこの天井が見えているからです。

つまり障害者グループホームの収支は、満室のときの利益が大きいかどうかではなく、8人目までの赤字期間を何ヶ月で抜けられるかという勝負になります。

売上の内訳|お金は「3つの財布」から入ってくる

グループホームの売上は、1つの財布から来ているわけではありません。性質のまったく違う3種類のお金が混ざっています。ここを分けて理解していない人は、収支計画を必ず読み違えます。

収入の種類1人あたり月額(モデル)払う人性質
障害福祉サービス報酬(給付費)約22万円国・自治体が9割、利用者が1割これが利益の源泉
家賃約3.5万円利用者(うち月1万円まで自治体の助成あり)実費。大家への支払いとの差額のみ残る
食費約3.5万円利用者実費。食材費を引いた残りだけ
水道光熱費約1.2万円利用者実費
合計約30.2万円(編集部逆算モデル)

①障害福祉サービス報酬 —— 唯一の「利益になる」お金

3つの財布のうち、事業の利益になるのは実質これだけです。仕組みはこうです。

  • サービスの値段は「単位」で決められています。基本は1単位=10円で、都市部ほど単価が上乗せされます(地域区分)。
  • 1人あたりの基本報酬は、類型(介護サービス包括型/外部サービス利用型/日中サービス支援型)×世話人の配置の手厚さ(6:1〜3:1など)×利用者の障害支援区分(1〜6。数字が大きいほど支援が必要)の組み合わせで決まります。
  • そこに加算が上乗せされます。夜間に職員を置く、医療機関と連携する、資格者を一定割合置く、といった取り組みごとに単価が付きます。

ここで大事なのは、同じ10人でも売上が1.5倍くらい違うということです。区分が重い方が多く、夜間体制や資格者の加算を取れているホームと、区分が軽い方ばかりで加算をほとんど取っていないホームでは、月の給付費が数十万円変わります。上の表の22万円は「区分3〜4の方が中心で、標準的な加算を取れている」という前提の数字です。

報酬の単位数と加算の要件は3年ごとの報酬改定で変わります。必ず厚生労働省と、指定を受ける自治体の最新の資料で確認してください。

②家賃・食費・水道光熱費 —— 儲けを乗せてはいけないお金

こちらは利用者からもらう実費です。原則として実際にかかった額を精算するもので、ここに利益を乗せることは認められていません。

食費3.5万円をもらって食材に2.6万円かかれば、残る9,000円は調理をする職員の手間に対する分であって、儲けとして設計するお金ではありません。家賃も同じで、大家に払う額と入居者からもらう額の差が大きすぎれば、指導の対象になります。

実際、大手のグループホーム事業者が食材費を過大に徴収していたことが発覚し、指定取消しにまで至った事例が報道されています。それ以降、この部分の監査は明確に厳しくなりました。「食費で稼ぐ」という発想は、事業ごと失う道です。

③家賃助成(補足給付) —— 事業者の収入ではない

生活保護や低所得の利用者には、家賃負担を軽くする助成(特定障害者特別給付費)があります。月1万円が上限です。これは利用者の負担を減らすための制度で、事業者が余分にもらえるお金ではありません。ただし入居者にとっては「実質の家賃が1万円下がる」ので、入居のハードルを下げる効果はあります。制度の対象や金額は変わることがあるため、自治体の公式情報で確認してください。

お金の内訳を計算する

支出の内訳|人件費は「売上の5割〜7割」で動く

次に出ていくお金です。定員10名のモデルで並べます。

項目月額性質
人件費(世話人・生活支援員・夜間対応・サービス管理責任者)約155万円固定
建物賃借料(大家への支払い)約28万円固定
保険・請求システム・通信約6万円固定
車両・送迎約4万円固定
消耗品・修繕・雑費約7万円固定
食材費1人あたり約2.6万円変動
水道光熱費(実費)1人あたり約0.9万円変動
固定費合計約200万円(編集部逆算)

この表で一番のポイントは、費用のほとんどが「固定」の欄に並んでいることです。

入居者が5人でも10人でも、夜は職員を置かなければいけないし、建物の家賃は満額かかります。人数に比例して増えるのは食材費と光熱費だけで、1人あたり3.5万円ほど。つまり1人入居が増えるごとに、手元に残るお金が約26.7万円ずつ増えていく計算になります(収入30.2万円 − 変動費3.5万円)。

固定費200万円 ÷ 1人あたり26.7万円 = 7.5人。これが先ほどの「8人目でトントン」の根拠です。

人件費が売上に占める割合も、稼働率でこれだけ動きます。

  • 満室10名のとき:155万円 ÷ 302万円 = 約51%
  • 8名のとき:155万円 ÷ 242万円 = 約64%
  • 5名のとき:155万円 ÷ 151万円 = 約103%(人件費だけで売上を超える)

「グループホームは人件費率6割」とよく言われますが、6割というのはそこそこ埋まっている状態の数字です。埋まっていないホームの人件費率は、あっという間に80%、100%を超えます。

数字が下振れする4つのスイッチ

上のモデルが崩れるパターンを、起きやすい順に挙げます。

① 空床(いちばん大きい) 1床空くと、月30万円・年360万円の収入が消えます。しかも退去は予告なく起きます。体調を崩して入院した、家族が引き取ることになった、本人が別のホームに移った——いずれも事業者の努力ではどうにもならない理由です。10床のうち常に1〜2床が入れ替わる前提で計画を組んでください。

② 人が採れない・辞める 世話人や夜勤スタッフが採れなければ、定員があっても受け入れられません。特に地方では夜勤の担い手が集まらず、募集を出し続けても数ヶ月決まらないことがあります。さらに深刻なのが**サービス管理責任者(サビ管)**の欠員で、これは事業所として満たすべき人員基準に関わるため、欠けた状態が続くと報酬が減額されます。「サビ管が辞めた月から利益が消えた」というのは、この業界では珍しい話ではありません。

③ 障害支援区分の構成が変わる 区分は定期的に見直されます。区分の重い方の割合が下がれば、同じ人数でも基本報酬が下がります。逆に重い方が増えれば報酬は上がりますが、必要な職員数と現場の負担も増えます。「人数さえ埋まれば売上は固定」ではない、という点は押さえておいてください。

④ 報酬改定と実地指導 3年ごとの報酬改定で、取れていた加算の要件が変わることがあります。また、実地指導で記録の不備が見つかると、過去にさかのぼって報酬の返還を求められる場合があります。日々の支援記録・勤務実績・会計の記録を残す仕組みは、開業初日から作っておくべきものです。

障害者グループホームだけの落とし穴

他の業種の開業経験がある人ほど、ここでつまずきます。

入金は2ヶ月後 サービスを提供した月の翌月に請求し、入金はさらにその翌月です。4月に開業しても、最初のまとまった入金は6月。つまり最低でも3ヶ月分の人件費と家賃を、売上ゼロの状態で払い続けることになります。ここに「8人埋まるまでの赤字期間」が重なるので、運転資金は6ヶ月分以上を見ておくのが現実的です。上のモデルなら1,200万円前後です。

建物は「寄宿舎」扱いになる グループホームは建築基準法上、住宅ではなく寄宿舎として扱われます。中古の一軒家を借りて始める場合、規模によっては用途変更の手続きが必要になり、消防設備(自動火災報知設備・誘導灯・消火器など)の設置も求められます。「安い戸建てを見つけた」と契約してから、消防と建築の要件で数百万円かかると判明する——これが物件まわりで最も多い失敗です。契約前に、必ず建築士と所轄の消防署に図面を見てもらってください。

自治体が新規指定に慎重な地域がある 自治体は障害福祉計画で必要なサービス量を決めています。すでに足りていると判断されている地域では、新規の指定に対して慎重な姿勢を取ることがあります。**物件を探すより先に、事業を行いたい市区町村の障害福祉担当課へ事前相談に行ってください。**ここで方針が分かれば、それだけで数百万円の無駄を防げます。

入居者は広告では集まらない チラシやWeb広告を打っても、入居希望者は来ません。入居につながるのは、相談支援専門員(利用者にどのサービスを使うか一緒に考える専門職)、特別支援学校の進路担当、病院や施設のソーシャルワーカーからの紹介です。開業前から地域の相談支援事業所へ挨拶に回れているかどうかで、開業後の埋まるスピードが半年単位で変わります。この事業の営業活動は、開業してから始めるものではありません。

背景|この業界はどれくらいの大きさなのか

グループホームが属する社会保険・社会福祉・介護事業の全国の事業所数は、229,768事業所です。全産業の事業所数5,287,701のうち4.3%を占め、97ある産業分類のなかで7位という規模です。

出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年経済センサス-活動調査」を加工して作成

これは「大きな市場がある」という良い話であると同時に、同じ地域の中に競合も人材の取り合い相手も大量にいるという意味でもあります。福祉の事業所が多い地域では、入居者を紹介してもらう競争と、職員を採用する競争が同時に起きます。事業所数の多さは、参入のしやすさではなく、差がつくポイントが「紹介ルート」と「採用力」に集中していることを示しています。

開業前に確認したい3つのこと

数字を細かく作り込む前に、この3つを潰してください。順番も大事です。

  1. 自治体の障害福祉担当課へ事前相談する —— 新規指定を受け付けている地域か、どの類型が求められているかを聞きます。物件探しより先です。
  2. サービス管理責任者のあてを作る —— 一定年数の実務経験と、基礎研修・実践研修の修了が必要な職種です。研修は年に限られた回数しか行われず、要件を満たす人はどの地域でも不足しています。この人が見つからなければ、指定申請そのものが出せません。
  3. 物件は契約前に建築士と消防に見てもらう —— 用途変更の要否、消防設備の追加費用、部屋の広さや個室要件を確認します。ここを飛ばした人だけが、想定外の数百万円を払っています。

指定基準・報酬・研修の要件はいずれも制度改正で変わります。最新情報は厚生労働省および事業を行う自治体の公式サイトで必ず確認してください。

まとめ|「安定している」の中身を正しく理解する

障害者グループホームが儲かるかどうかは、次の一点に集約されます。

  • 定員10名なら、8人目が埋まるまでは毎月赤字。満室で月60万円台、年800万円ほどが残る(返済前・税引き前・自分の人件費含まず)。
  • 費用の8割以上は固定費。だから稼働率がすべてで、1床の空きが年360万円の差になる。
  • 入金は2ヶ月後。運転資金は6ヶ月分以上が現実的なライン。
  • 入居者は広告ではなく、相談支援専門員などの紹介から来る。開業前の関係づくりが埋まる速さを決める。

給付費で収入が安定しているというのは事実です。ただしそれは「埋まったあとの安定」であって、埋めるまでの数ヶ月をしのげる資金と、人を採り続ける力がある人にだけ届く安定です。逆に言えば、そこを正面から準備できるなら、他業種より読みやすい事業だとも言えます。

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