結論:訪問介護が儲かるかは「ヘルパーが何人いるか」でほぼ決まる
訪問介護は、利用者さんの自宅に訪問して、体を支える介助(身体介護)や掃除・買い物の代行(生活援助)を行う仕事です。お店を持たないので初期費用は小さい一方、売上の上限が「動けるヘルパーの人数」で頭打ちになるという、他の商売にはない性質があります。
まず結論から、体制別の目安を置きます。
| 体制(常勤換算) | 月の訪問件数の目安 | 月商の目安 | オーナーの手元に残る額の目安 |
|---|---|---|---|
| ヘルパー3人+サ責1人 | 約350〜450件 | 100〜130万円 | 15〜25万円 |
| ヘルパー5人+サ責1人 | 約600〜700件 | 180〜220万円 | 35〜50万円 |
| ヘルパー8人+サ責2人 | 約950〜1,100件 | 280〜320万円 | 60〜85万円 |
この表の前提(重要)
- 借入の返済前の金額です(返済がある場合はここから毎月引かれます)
- 税金・社会保険料を払う前の金額です(法人税・所得税・社会保険料はここから出ていきます)
- オーナー自身の人件費は含まれていません。オーナーが管理者兼サービス提供責任者として働く分の給料は、上の「手元に残る額」から取る形です
- 平均単価3,000円で試算した編集部逆算の目安であり、収益を保証するものではありません
「常勤換算」とは、パートさんの働いた時間を常勤(フルタイム)何人分かに換算した数え方です。週20時間のパート2人なら、常勤1人分(=1.0)として数えます。訪問介護の事業所を始めるには、この常勤換算で訪問介護員2.5人以上、加えてサービス提供責任者(サ責)と管理者を置くことが指定基準で決まっています。
つまり、いちばん小さく始めても表の一番上の行あたりからのスタートになります。「一人で開業して月100万円」という形は、訪問介護では制度上つくれません。
売上はこう積み上がる|訪問1回いくらの世界
訪問介護の売上は、訪問1回ごとの単価 × 月の訪問件数、これだけです。しかも単価は自分で決められません。国が決めた「介護報酬」という公定価格(こうていかかく=国が決めた値段)で動きます。
報酬は「単位」という点数で表され、1単位あたりおおむね10円、都市部ほど少し高くなる地域区分がついています。代表的なサービスを金額に直すと、こんなイメージです。
| サービス区分 | 1回あたりの単価の目安(編集部逆算) |
|---|---|
| 身体介護 20分以上30分未満 | 約2,400〜2,700円 |
| 身体介護 30分以上1時間未満 | 約3,900〜4,400円 |
| 生活援助 20分以上45分未満 | 約1,800〜2,000円 |
| 生活援助 45分以上 | 約2,200〜2,400円 |
※公表されている単位数に1単位10円前後を掛けて編集部が計算した概算です。単位数は改定のたびに変わり、地域区分でも上下します。実際の金額は必ず厚生労働省および事業所を置く自治体の最新資料で確認してください。
ここで押さえておきたいのが、身体介護と生活援助では単価が2倍ほど違うことです。掃除や買い物中心の生活援助ばかりを受けていると、同じ訪問件数でも月商が3割以上変わります。「件数は埋まっているのに売上が伸びない」事業所は、たいていここが原因です。
月商のつくり方は単純です。ヘルパー1人が1日5〜6件回り、月22日稼働なら1人あたり110〜130件。常勤換算5人なら月600〜700件。平均単価3,000円なら月商180〜210万円、という積み上げになります。
手元に残るまでの内訳|人件費が売上の6〜7割を持っていく
月商200万円のモデルで、お金がどう出ていくかを分解します。
| 項目 | 月額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 売上(月商) | 200万円 | 訪問約660件 × 平均3,000円 |
| ヘルパー人件費(社会保険料含む) | 120〜140万円 | 売上の60〜70%。オーナー分は含まず |
| 事務所家賃 | 5〜12万円 | 地方の小規模事務所を想定 |
| 車両・ガソリン・駐車場 | 4〜8万円 | 軽自動車2〜3台または自転車併用 |
| 介護請求ソフト・通信費 | 2〜4万円 | 請求業務に事実上必須 |
| 損害賠償保険・消耗品・雑費 | 3〜5万円 | 事故時の備えは必須 |
| 残る額(返済前・税前・オーナー人件費含まず) | 35〜50万円 | ここからオーナーの給料と税金を払う |
飲食店なら原価と人件費の合計(FL比率)を見ますが、訪問介護には仕入原価がほとんどありません。代わりに人件費ひとつで利益がほぼ決まる構造です。
そして訪問介護の人件費が重いのには理由があります。移動時間には報酬がつかないからです。利用者さん宅からの次の移動に20分かかっても、その20分に介護報酬は発生しません。それでもヘルパーさんへの移動手当や時給の支払いは発生します。訪問エリアを広く取るほど、この「稼げない時間」が増えて人件費率が上がっていきます。

エリアを半径3〜5km程度に絞り、1日の訪問先を近い順に組める状態をつくれるかどうか。これが訪問介護で人件費率を60%台に収められるか、70%を超えてしまうかの分かれ目です。
下振れするのはどこか|3つの落ち方
計画どおりにいかないとき、訪問介護は決まったパターンで下振れします。
1. 利用者さんの入院で、売上が突然消える
訪問介護の利用者さんは高齢の方です。入院すれば、その方の訪問はその日から止まります。月8万円分を利用していた方が2人入院すれば、翌月の売上は16万円減ります。月商120万円の小規模事業所にとっては13%の減収です。飲食店の「客足が鈍る」とは違い、一件単位でスパッと消えるのが特徴です。利用者数が少ないうちほど、この揺れは大きく効きます。
2. ヘルパーが辞めて、依頼を断ることになる
訪問介護の求人は、全国どこでも簡単ではありません。ヘルパーが1人辞めると月110〜130件分、金額にして月30〜40万円の売上が作れなくなります。しかも代わりが採れるまで、ケアマネジャーからの新規依頼を断ることになります。一度断ると次の依頼が来にくくなるため、売上の落ち方は人数の減り方より大きくなりがちです。
3. 常勤換算2.5人を割ると、事業そのものが続けられない
人員基準(訪問介護員2.5人以上)を下回った状態は、指定基準違反になります。指導や、場合によっては受け取った報酬の返還につながります。「人が減ったから今月は縮小して回そう」が通用しない業種だ、という点は必ず頭に入れてください。
訪問介護だけの落とし穴|黒字なのに現金が尽きる
ここが、この記事でいちばん読んでほしいところです。
介護報酬は、サービスを提供した月の「翌々月末」に入金されます。
4月に働いた分は、5月10日までに国保連(国民健康保険団体連合会)へ請求し、入金は6月末。つまり2か月分の売上が、常に未回収のまま先に走っている状態です。
一方で、ヘルパーさんへの給料は毎月支払わなければなりません。開業初月から人件費は出ていくのに、最初の入金は3か月目の月末です。
| 月 | 入ってくるお金 | 出ていくお金(人件費など) |
|---|---|---|
| 1か月目 | 0円 | 約100万円 |
| 2か月目 | 0円 | 約120万円 |
| 3か月目 | 1か月目分が末に入金 | 約130万円 |
**開業時には、人件費の3〜4か月分を現金で用意しておく必要があります。**月商200万円規模を目指すなら400〜500万円。ここを甘く見た結果、「利用者は順調に増えているのに、給料が払えない」という状態に陥る事業所が実際にあります。売上の伸びと現金の増減が、訪問介護では完全にズレます。
さらに2つ、資金面で注意しておきたい点があります。
- 利用者負担分(1〜3割)は自分で回収する:残りの7〜9割は国保連から入りますが、利用者さん本人が払う分は事業所が直接いただきます。口座振替の仕組みを最初に整えておかないと、未回収が積み上がります
- 返戻(へんれい)で入金がずれる:請求内容や記録に不備があると、請求が差し戻され、その分の入金がさらに1か月遅れます。訪問記録をきちんと残す体制は、そのまま資金繰りの話です
もうひとつ、営業先が特殊なことも押さえてください。訪問介護の依頼は、利用者さん本人からではなく、ケアマネジャー(居宅介護支援事業所)からの紹介でほぼ決まります。チラシやSNSで一般の方に広告を打っても、ケアプランを作るのはケアマネさんだからです。開業前に、地域の居宅介護支援事業所を回って顔をつなぐ。この地道な営業ができるかどうかが、稼働率をそのまま左右します。
通所型と比べる|同じ介護でも初期費用は20倍違う
「介護で開業」と一口に言っても、訪問型と通所型(デイサービス)では必要なお金がまるで違います。当サイト掲載ブランドの実データと並べてみます。
| 項目 | 訪問介護(自力開業の目安・編集部逆算) | リハビリ型デイサービス「リハプライド」 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 250〜600万円 | 3,000万円(運転資金1,500万円含む) |
| 加盟金 | なし | 610万円 |
| ロイヤリティ | なし | 月額固定17万円(税抜) |
| モデル売上 | 月100〜300万円 | 月商300〜400万円 |
| モデル利益 | 月15〜85万円 | 月60〜100万円 |
| 物件 | 小さな事務所でよい | 施設・機器・送迎車が必要 |
※金額は本部公表値です。時期により変動します。最新の条件はブランドページおよび本部の公式資料で確認してください。
見えてくるのは、**訪問介護は「初期費用が小さい代わりに、利益の伸びが人数に縛られる」**という性質です。箱(施設)を持てば一度に多くの利用者を受け入れられますが、そのぶん3,000万円級の初期投資と、埋まらなかったときの固定費リスクを背負います。訪問型は投資が小さく撤退もしやすい反面、売上を2倍にするにはヘルパーを2倍採らなければなりません。
参考までに、介護保険を使わない訪問型サービス、たとえばハウスクリーニングの「おそうじのえる」は、初期費用105万円〜、オーナー1名稼働で月商132万円・手取り82万円というモデルを公表しています(利益率62%)。同じ「訪問して稼ぐ」形でも、価格を自分で決められる自由価格の商売と、公定価格の介護保険サービスでは、1人あたりの利益がここまで変わります。
訪問介護の単価は上げられません。だからこそ、身体介護の比率を高める、移動を短くする、稼働率を上げる——単価以外の3つでしか利益は動かせない、と理解しておくことが大事です。
背景:市場は大きいが、参入も多い
社会保険・社会福祉・介護事業の全国事業所数は229,768事業所あります。全産業97業種のうち7位、全事業所5,287,701のうち4.3%を占める規模です。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年経済センサス-活動調査」を加工して作成
高齢化で需要が減る心配は当面ありません。ただしこの数字は「同じ地域に、すでにたくさんの事業所がある」ことも意味します。訪問介護で新規参入が受け入れられるのは、需要が余っているからというより、既存事業所が人手不足で依頼を断っているからというケースが多いのが実情です。
裏を返せば、人を採って定着させられる事業所だけが伸びる市場ということです。開業計画を立てるとき、集客の計画より先に「誰を、いくらで、どうやって採るか」を書けているかを確認してください。訪問介護の事業計画で最初に埋めるべき欄は、売上予測ではなく採用計画です。
開業に必要なお金の目安
最後に、初期費用の内訳を整理します。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 法人設立費用 | 6〜25万円(合同会社か株式会社かで変動) |
| 指定申請の手数料・書類作成 | 0〜10万円(自治体により異なる) |
| 事務所の賃貸・整備 | 20〜50万円 |
| 車両(軽自動車・自転車) | 0〜100万円(リース・自家用活用で圧縮可) |
| 介護請求ソフト導入 | 0〜20万円(月額1〜3万円が別途) |
| 採用費(求人広告など) | 10〜50万円 |
| 運転資金(人件費3〜4か月分) | 150〜400万円 |
| 合計 | 250〜600万円 |
※編集部が一般的な小規模開業を想定して算出した目安です。指定申請の要件や手数料は自治体ごとに異なるため、必ず事業所を置く市区町村・都道府県の公式サイトで最新の情報を確認してください。
金額の大半が運転資金であることに気づいたでしょうか。訪問介護は「設備にお金がかからない代わりに、現金を寝かせる期間が長い」商売です。日本政策金融公庫などの創業融資を検討する場合も、この2か月の入金ズレを説明できると、計画書の説得力が変わります。
まとめ|訪問介護で見るべき数字は3つだけ
- 常勤換算の人数:売上の上限を決めます。3人体制なら月商100〜130万円が現実的なライン
- 身体介護の比率:単価が2倍違います。生活援助中心では同じ件数でも月商が3割落ちます
- 手元の現金:入金は2か月遅れ。人件費3〜4か月分を持たずに始めると、黒字でも続きません
「儲かるか」の答えは、ヘルパーを採用して定着させられるなら、月30〜80万円の利益が現実的な射程に入る。採用が止まれば売上も止まる、というのが正直なところです。必ず儲かる業種ではありませんし、逆に、人が集まる事業所であれば初期投資の小ささのわりに安定した業種でもあります。
介護の中でも通所型・訪問型・保険外サービスで必要な資金も稼ぎ方もまったく違うので、まずは自分の資金と体力に合う形を見比べてみてください。掲載ブランドの初期費用やロイヤリティはフランチャイズ一覧で条件ごとに比較できます。
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