結論|放課後等デイサービスが儲かるかは、稼働率でほぼ決まる
先に結論の数字から出します。定員10名・月22日開所という、地方でよくある1事業所のモデルで計算したものです。
| 稼働率(定員10名に対して) | 1日平均の利用人数 | 月商 | 経費合計 | 営業利益 返済前/税前/自分の人件費は含まず | 借入返済を引いた後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 60% | 6人 | 132万円 | 129万円 | 3万円 | ▲6万円 |
| 80% | 8人 | 176万円 | 134万円 | 42万円 | 33万円 |
| 95% | 9.5人 | 209万円 | 146万円 | 63万円 | 54万円 |
※すべて編集部が仮の条件で計算したモデルです(編集部逆算)。「稼働率」とは、定員に対して1日平均で何人が実際に通ったかの割合のこと。返済は「自己資金300万円+日本政策金融公庫から1,000万円を10年・年2%で借入=月9.2万円」で置いています。
この表で一番見てほしいのは、60%の行が実質赤字になっていることです。売上は稼働率に比例して下がるのに、経費はほとんど下がりません。放課後等デイサービスは法律で職員の人数が決まっている(人員基準)ため、子どもが少ない日でも職員を減らせないからです。
「放課後等デイサービスは儲かる」と言われるとき、たいていは80%以上で回っている事業所の話をしています。60%と80%の差は、月商で44万円、手元では39万円。この差を埋めるのは経営努力ではなく、地域に子どもがいるかどうかと、相談支援専門員や学校からの紹介ルートを作れるかどうかです。
売上の作られ方|「単価 × 利用人数 × 開所日数」しかない
放課後等デイサービスの売上は、飲食店のように「客単価を上げて粗利を稼ぐ」ということができません。値段を自分で決められないからです。
- 料金は国が決めた公定価格(障害児通所給付費)です。事業所が勝手に値上げできません
- 利用する家庭が窓口で払うのは原則1割。残りの9割は市区町村から入ります
- その9割は、月末に国保連(国民健康保険団体連合会)へ請求し、入金は請求の翌々月ごろになるのが一般的です
つまり売上の式は、1人1日あたりの単価 × 1日の利用人数 × 月の開所日数、これだけ。このモデルでは1人1日あたり1万円と仮に置いて計算しています。実際の単価は報酬の単位数・地域区分・提供時間・加算の取り方で変わるので、必ず厚生労働省と開設予定地の自治体の公式資料で最新の単位数を確認してください。
ここで開業前に効いてくるのが、入金が2か月遅れるという点です。4月に開所しても、まとまった入金は6月。その間の家賃と給料は自腹です。運転資金を「3か月分」で組むと、ほぼ確実に足りません。相談を受けていて一番よく見る資金ショートがこれです。
内訳分解|月商176万円が、手元33万円になるまで
稼働率80%(月商176万円)の内訳を分解します。
| 項目 | 月額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 人件費(児発管1名・児童指導員2名・パート2名) | 100万円 | 57% |
| 家賃(地方の戸建て・1階テナント 40〜60㎡) | 13万円 | 7% |
| 送迎車2台(リース+燃料+保険) | 7万円 | 4% |
| 水道光熱費・通信費 | 5万円 | 3% |
| 教材・消耗品・おやつ・損害保険 | 5万円 | 3% |
| 広告・採用費・会計事務所 | 4万円 | 2% |
| 経費合計 | 134万円 | 76% |
| 営業利益(返済前/税前/自分の人件費は含まず) | 42万円 | 24% |
| 借入返済(1,000万円・10年・年2%) | ▲9.2万円 | — |
| 残り | 約33万円 | — |
(編集部逆算。実際の金額は地域と物件で変わります)
一目でわかるとおり、この商売の6割近くは人件費です。「児発管(児童発達支援管理責任者)」は個別支援計画を作る責任者で、この人がいないと事業所を運営できません。児発管が辞めた瞬間、売上がゼロになるリスクがある——これが放課後等デイの一番の急所です。

そして、上の33万円はまだ自分の給料を引いていない金額です。ここからオーナーが月30万円を取れば、手元に残る現金はほぼゼロ。オーナー自身が管理者や児童指導員を兼ねて人件費100万円の中に入るなら話は別ですが、その場合は「経営者」ではなく「現場で毎日働く人」になります。どちらの働き方をするのかは、計画の段階で決めておいたほうがいいです。
下振れする4つの条件
稼働率80%が60%に落ちる原因は、だいたいこの4つに集約されます。
- 地域に対象の子どもが少ない — 放課後等デイの利用には受給者証が必要です。市区町村が公表している支給決定者数と、既存事業所の数を必ず先に調べます。子どもの数より事業所の数が多い地域は、開所直後から取り合いになります
- 紹介ルートがない — 利用者は看板を見て来ません。相談支援専門員、特別支援学校・学級、市の障害福祉課からの紹介が主です。ここに顔がない状態での開業は、稼働の立ち上がりが半年〜1年遅れます
- 送迎が回らない — 学校の下校時刻は学校ごとにバラバラです。送迎ルートが組めない=その子は受け入れられない、と直結します。車と運転できる職員の数が、実質的に定員の上限になります
- 報酬改定 — 公定価格は数年ごとに見直されます。加算の要件が変わるだけで、月商が数十万円動くことがあります。改定に耐えられない資金繰りだと、その年に詰みます
「必ず埋まる」計画は作れません。稼働率60%でも生き残れるかを先に確認してから、80%の絵を描いてください。
放課後等デイサービス固有の落とし穴
他の業種にはない、この業態だけのリスクがあります。
- 指定を受けないと1円も請求できない:都道府県・政令市の指定事業者にならないと、給付費を請求できません。物件の用途・面積・避難経路や人員配置の要件を満たす必要があり、申請から指定まで数か月かかります。物件契約が先行すると、その間ずっと空家賃が出ます
- 請求ミスが「不正請求」になる:個別支援計画の未作成、人員基準を満たさない日の請求などは、返還や指定取消の対象になり得ます。悪意がなくても処分は同じです。書類の運用ルールを最初に固めることが、実は一番の利益防衛策です
- 人が採用できないと定員を増やせない:福祉業界は慢性的な人手不足です。求人費用を月4万円の広告費に含めていますが、地方では児発管の採用に半年かかることもあります
- 事故が起きたときの責任が重い:預かっているのは子どもです。送迎中の事故、けが、送迎忘れ。損害保険とマニュアルは、経費削減の対象にしてはいけない項目です
制度の要件は自治体ごとに運用が異なります。最新情報は必ず開設予定地の自治体と厚生労働省の公式サイトで確認してください。
背景|市場の大きさと、同じ福祉分野のFCの実数値
放課後等デイサービスが属する「社会保険・社会福祉・介護事業」は、全国で229,768事業所あります(全97産業中7位、全事業所の4.3%)。市場としては大きく、需要も安定していますが、その裏返しで競合も多いというだけの話です。市場規模は、あなたの町の稼働率を1%も保証しません。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年経済センサス-活動調査」を加工して作成
参考として、同じ福祉分野で公定価格を売上源とするフランチャイズの公表数値を挙げます。対象は高齢者ですが、「公定価格 × 定員 × 稼働率」で売上が決まる構造は放課後等デイと同じなので、数字の作られ方の比較になります。
| 項目 | リハプライド(リハビリ型デイサービス) |
|---|---|
| 初期費用 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
| 加盟金 | 610万円 |
| ロイヤリティ | 月額固定17万円(税抜) |
| モデル売上 | 月商300〜400万円 |
| 月間利益 | 月20〜100万円 |
注目したいのは2点です。ひとつは、運転資金として1,500万円を最初から見ていること。公定価格ビジネスは入金が遅いため、本部側も厚く見積もっています。もうひとつは、ロイヤリティが定額であること。売上が伸びるほど負担率は下がりますが、売上が落ちても17万円は変わりません。売上比のロイヤリティとどちらが自分に合うかは、稼働率が読めるかどうかで判断が変わります。
※金額は本部公表値です。時期により変動するため、最新の条件は必ず本部の公式資料で確認してください。「必ず儲かる」という保証ではありません。
加盟・開業を決める前に確認したい5項目
フランチャイズに加盟する場合も、独立で始める場合も、この5つは契約前に紙で確認してください。
- モデル収支の前提条件 — 稼働率何%・定員何名・地域区分どこの数字か。前提が書かれていないモデル収支は判断材料になりません
- 既存事業所の実績のばらつき — 平均値ではなく、下位25%の事業所がいくらかを聞きます。答えられない本部は、その時点で情報が薄いということです
- 児発管の採用支援があるか — 「紹介します」なのか「求人票の書き方を教えます」なのかで、価値がまったく違います
- 報酬改定時の対応実績 — 直近の改定で加盟店の収支がどう動き、本部が何をしたか。ここは実績でしか測れません
- 契約終了時の条件 — 中途解約金、競業避止(近くで同業をやってはいけない期間)、内装の原状回復費用
なお、開業時に使える補助金・助成金は地域ごとに違います。あてにして計画を組むのは危険ですが、使えるなら初期費用の負担は軽くなります(補助金・助成金を探す)。
まとめ|「儲かる」より先に「潰れない」を設計する
- 放課後等デイサービスは、稼働率80%で月33万円前後(返済前・税前・自分の人件費を含まない場合は月42万円)というのが、地方の1事業所モデルの現実的な線です
- 稼働率60%では実質赤字。人員基準があるため、暇な日でも人件費は下がりません
- 入金は請求の翌々月。運転資金は最低でも6か月分を用意してください
- 一番の急所は児発管。採用と定着が、そのまま収益の安定になります
数字を見て「思ったより残らない」と感じたなら、その感覚は正しいです。逆に言えば、稼働率を80%まで持っていける地域と紹介ルートを先に押さえられるなら、公定価格ビジネスは景気に左右されにくい安定した事業になります。
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