「アパート経営 失敗」で検索する人の多くは、まだ買っていません。業者から試算書をもらって、数字がきれいすぎることに違和感を持って調べ始めた——そういう段階の方が一番多いです。
この記事は、その違和感が正しいかどうかを自分で確かめるための記事です。結論から言うと、アパート経営で失敗する人の共通点はほぼ1つに集約されます。「返済後に手元にいくら残るか」を、悪い条件で計算していないことです。
結論:アパート経営の失敗は「空室」ではなく「返済後の手取り」で起きる
よく「空室が出たから失敗した」と言われますが、これは正確ではありません。空室は起きるものです。問題は、空室が1戸出た瞬間に赤字になる買い方をしていたことのほうです。
地方の木造アパート1棟を例に、実際の数字を並べます。以下はすべて編集部試算で、前提を明示したモデルです。実際の物件はこの通りにはなりません。
前提(編集部試算のモデル)
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 物件 | 地方・木造アパート1棟/1K×6戸 |
| 家賃 | 1戸45,000円 |
| 購入価格 | 4,000万円(諸費用込み4,280万円) |
| 表面利回り | 8.1% |
| 借入 | 3,600万円・金利2.0%・25年(自己資金680万円) |
| 月返済額 | 約15.3万円(年183万円) |
運営にかかる年間経費(編集部試算)
| 費目 | 年額 |
|---|---|
| 管理委託費(家賃の5%) | 16.2万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 20.0万円 |
| 火災保険・地震保険 | 5.0万円 |
| 修繕・原状回復(平均ならし) | 30.0万円 |
| 共用部の電気・水道・清掃 | 12.0万円 |
| 入居募集の広告費(年2戸・家賃2か月分) | 18.0万円 |
| 合計 | 約101万円 |
この前提で、稼働率を3パターン動かすとこうなります。
| 満室(6戸) | 1戸空き(5戸) | 2戸空き(4戸) | |
|---|---|---|---|
| 年間家賃収入 | 324万円 | 269万円 | 217万円 |
| 運営経費 | ▲101万円 | ▲101万円 | ▲101万円 |
| 返済前・税前に残る額 | 223万円(月18.6万円) | 168万円(月14.0万円) | 116万円(月9.7万円) |
| ローン返済後(税前) | 40万円(月3.3万円) | ▲15万円(月▲1.3万円) | ▲67万円(月▲5.6万円) |
| 自分の人件費の扱い | 含まず(管理委託前提) | 同左 | 同左 |
読み取ってほしいのは1行だけです。表面利回り8.1%という「悪くない物件」でも、満室で月3.3万円しか残らず、1戸空いた時点で赤字になる。これがアパート経営で起きていることの正体です。
そして経費101万円のうち、修繕30万円と広告費18万円は「平均でならした金額」です。実際は出る年と出ない年があり、出る年にまとめて来ます。
なぜ今「アパート経営 失敗」を調べる人が増えているのか
このキーワードで検索する人が増えている背景には、ここ数年で起きた3つの変化があります。どれも、数年前に組んだ計画をそのままでは維持できなくする要因です。
- 変動金利の前提が変わった。 低金利がずっと続く前提で25年・30年のローンを組んだ人が、返済額の再計算を迫られています。
- 修繕費と原状回復費が上がった。 資材と職人の人件費が上がり、10年前の見積もり感覚が通用しなくなっています。
- 相続でアパートを引き継いだ人が増えた。 自分で選んで買ったわけではない築古アパートを、ローンごと引き継ぐケースです。
3つとも「買うときには存在しなかった数字」が後から入ってくる話です。だから、契約前の試算に最初から悪い数字を入れておくことが唯一の防御になります。
アパート経営で失敗する人の共通点5つ
編集部に届く相談を整理すると、失敗した人・撤退を検討している人の話には同じ形が繰り返し出てきます。
1. 表面利回りだけで物件を比べている
表面利回りとは、年間家賃収入 ÷ 物件価格 で出す数字です。経費も、空室も、ローン返済も、税金も入っていません。つまりまだ何も引かれていない数字です。
先ほどのモデルでは表面利回り8.1%でしたが、経費を引いた実質利回りは 223万円 ÷ 4,280万円 = 約5.2%。さらに返済を引くと、自己資金680万円に対して年40万円です。並べる数字を間違えると、判断も丸ごと間違えます。
2. 満室想定でしか計算していない
業者の試算書は、多くの場合「満室想定」で始まります。それ自体は不正ではありません。ただし、満室想定の試算書は、そのままでは意思決定に使えません。最低でも「2戸空き」を入れた版を自分で作り直してください。
3. 「借りられる額」を「返せる額」だと思っている
金融機関が3,600万円貸してくれることと、その返済に耐えられることは別の話です。銀行が見ているのは担保と本人の属性であって、あなたの毎月の生活ではありません。
4. 建物と土地を分けて見ていない
木造アパートの建物価値は年々下がります。20年後に残っているのは基本的に土地です。出口(売却)で回収できる額は土地の価値でおおむね決まるのに、購入時は「利回り」しか見ていない人が非常に多い。
5. 試算書を自分で作り直していない
これがすべての根です。もらった紙を眺めるのではなく、同じ表を自分で1回、手で作り直す。数字を打ち込む過程で、前提のおかしさは自然に見えてきます。

撤退のきっかけは7つ|いつ表面化して、契約前に見抜けたか
実際に「手放そう」と決断する引き金になるのは、次のような出来事です。多い順ではなく、表面化する時期の順に並べました。
| 撤退のきっかけ | 表面化する時期 | 契約前に見抜けたか |
|---|---|---|
| 返済後に手元が残らないと気づく | 1〜2年目 | ◯ 空室2戸で試算していれば分かる |
| 想定家賃では埋まらず、下げて募集した | 2〜5年目 | ◯ 募集家賃ではなく成約家賃を調べれば分かる |
| 変動金利が上がり返済額が増えた | 任意のタイミング | ◯ 金利+1%の試算をすれば分かる |
| サブリースの家賃が減額された | 免責期間明け〜数年後 | ◯ 契約書の減額条項を読めば分かる |
| 大規模修繕でまとまった支出が出た | 10〜15年目(築古は購入直後) | ◯ 修繕履歴と建物の状態を確認すれば分かる |
| 相続・共有名義で売却の意思決定ができない | 売ろうとした時 | ◯ 名義と相続の整理をすれば分かる |
| 売却価格がローン残債を下回っていた | 出口 | ◯ 残債と想定売価の推移表を作れば分かる |
右端の列がこの記事の主張です。7つすべて、契約前に見抜けます。「予測できない不運」で撤退している人は、思っているより少ない。
特に読み違えやすい2つ
サブリース(家賃保証)の減額。 サブリースとは、管理会社が部屋をまとめて借り上げ、空室でも一定額をオーナーに払う仕組みです。「30年家賃保証」と書かれていても、契約書の中には一定期間ごとに家賃を見直す条項と、契約開始から数か月は支払いが発生しない免責期間が入っているのが一般的です。保証額が下がる可能性を前提に試算してください。
金利+1%の重さ。 先ほどのモデルで金利を2.0%→3.0%に変えると、月返済額は約15.3万円→約17.1万円、年間で約22万円増えます。満室でも年40万円しか残らない計画なので、満室のまま年18万円まで落ちる計算です(編集部試算)。1%が計画の半分を持っていきます。
契約前に見抜く方法|買う前に必ず埋める6項目
物件を見に行く前でも、ほとんどは机の上でできます。
① レントロールを「入居時期つき」でもらう レントロールとは、各部屋の家賃・契約日・入居状況を並べた一覧表です。ここで見るのは合計額ではなく、直近入居の部屋の家賃と、10年前から住んでいる部屋の家賃の差。差が大きいなら、その物件の「今の実力家賃」は下のほうです。
② 募集家賃ではなく、成約している家賃を調べる 賃貸ポータルサイトで、同じ駅・同じ間取り・築年数の近い部屋を検索し、同じ物件が何か月も掲載され続けていないかを見ます。ずっと出ている=その家賃では決まっていない、ということです。
③ 建物の修繕履歴と更新年を聞く 外壁塗装・屋根・給湯器・シロアリ対策。それぞれ「いつやったか」を確認します。答えられない、記録がないという場合は、近いうちに自分が払う前提で試算してください。
④ 契約書の3か所を読む サブリース契約なら「家賃改定条項」「免責期間」「解約条件(オーナー側から解約できるか)」。この3つは必ず現物で確認します。
⑤ 悪い条件を3つ同時に入れた試算を作る 空室2戸・金利+1%・修繕200万円。この3つを同時に入れてもキャッシュが回るか。1つずつではなく、同時に入れるのがポイントです。現実では重なって来ます。
⑥ 残債と想定売却価格の推移表を作る 5年後・10年後・15年後の「ローン残債」と「その時期に売れそうな価格」を並べます。残債のほうが上回っている期間は、売りたくても売れません。この期間の長さが、そのままあなたが動けない年数です。
税制や補助制度に関わる部分(減価償却、相続税評価、各自治体の空き家・住宅関連の支援制度など)は年度で変わります。最新情報は必ず国税庁や自治体の公式サイトで確認してください。
背景:不動産賃貸業は28万事業所の産業|初心者が置かれている位置
ここまでが実務の話で、以下は前提としての背景です。
政府統計「令和3年経済センサス-活動調査」(e-Stat)によると、不動産賃貸業・管理業の全国の事業所数は278,156事業所。全597産業のうち第4位で、全事業所5,287,701のうち5.3%を占めます。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年経済センサス-活動調査」を加工して作成
この数字の意味は単純です。28万事業所のプロがいる市場に、初心者が同じ土俵で入っていく、ということ。プロは日常的に物件情報に触れ、条件のいいものは市場に出る前に動きます。
だからこそ、広告や営業電話で個人に持ち込まれる物件には、そこに至った理由があると考えるのが自然です。悪い物件だと決めつける必要はありませんが、「なぜこれが自分のところに来たのか」を一度考えることには意味があります。
「出ていくお金」の側に回るという選択肢
アパート経営の試算表で毎年出ていく修繕・原状回復・清掃費は、別の誰かにとっては売上です。物件を持つ以外に、この側に回るという選び方もあります。
参考として、投資額と利益率の関係が見える例を1つだけ挙げます。おそうじのえるというお掃除・お庭サービスのフランチャイズは、次の数字を公表しています。
| 項目 | 公表値 |
|---|---|
| 初期費用 | 105万円〜 |
| 加盟金 | 30万円〜(キャンペーン適用時/通常200万円) |
| ロイヤリティ | 売上の25% |
| モデル月商 | 132万円 |
| 返済前・税前に残る額 | 月約82万円(利益率62%・オーナー1名稼働モデル) |
| 返済後 | 借入なしのモデルのため設定なし |
| 自分の人件費の扱い | 含まず(オーナー1名が稼働する前提) |
※本部公表値です。時期により変動します。最新の条件は必ず公式サイトで確認してください。ロイヤリティ25%は高めの水準で、売上が伸びるほど本部への支払いも増える構造です。
比べてほしいのは金額の大小ではなく、構造です。4,280万円を投じて満室で月3.3万円(返済後)が残るモデルと、105万円から始めて自分が働いた対価として月82万円(返済前・自分の人件費含まず)を目指すモデルでは、リスクの取り方も、うまくいかなかったときの傷の深さも別物です。
前者は借入とセットで、やめるには売るしかない。後者は自分が動かなければ売上が立たない代わりに、撤退の判断が軽い。どちらが正しいという話ではなく、自分がどちらのリスクなら背負えるかという選び方の問題です。
まとめ:契約前に埋めるべき数字は3つだけ
長くなったので、最後に絞ります。
- ① 空室2戸・金利+1%・修繕200万円を同時に入れて、返済後に手元がいくら残るか。 ここがマイナスなら、その物件はあなたの資金では成立していません
- ② レントロールの直近入居家賃。 今その物件が実際に取れている家賃です。想定家賃ではなく、こちらで計算します
- ③ 残債が想定売価を上回っている期間。 その年数のあいだ、あなたはこの物件から動けません
アパート経営そのものが危険なわけではありません。危険なのは、満室・低金利・修繕なしという3つの好条件が同時に続く前提で組まれた計画のほうです。この3つを外して計算し直しても成立するなら、それは検討に値する物件です。
そして、この計算は物件を買う前なら何度でもタダでやり直せます。急いで決める話ではありません。
自分の資金でどのくらいの規模なら無理がないのか、そもそも物件を持つ形が自分に合っているのかを整理したい方は、フランチャイズ一覧で初期費用とロイヤリティの実データを並べて、必要な資金の桁を見比べてみてください。
手元に試算書や物件資料がすでにある方は、無料LINE相談もあります。「この家賃設定は現実的ですか」「この返済額で空室2戸に耐えられますか」といった1点だけの確認でも構いません。判断材料が足りないと感じたときにだけ使ってください。
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